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[R+] 現代インドの歪んだ群島『インド人のことはインド人に聞け!』

インド人だって、シンガポールに行けば振るまいが変わるものさ。(オンカール氏のことば。p19)

現代インドの様相をさまざまな角度から描写したレポート、インドのことはインド人に聞け! (COURRiER BOOKS)(中島岳志 著)を読んで一番衝撃的だったのは、第1章の「ゲーテッド・コミュニティ」の話。カタカナだとぱっとイメージが湧きにくいが、文字通り “Gated”:門の閉ざされた、お金持ちのためのクローズな共同体のこと。ゲーテッド・コミュニティの中には、必要なものがすべて整う流通があり、厳重な警備が施され、そして高い塀によって外界から孤立している。ここに住む人たちは、急激なインドの経済発展で成り上がった富裕層。

だが、その一方で、塀の外には、下位カーストや経済成長の波に乗りそびれた大勢の貧困者が暮らしている。その暮らしの差は歴然であり、塀の中とは、人の交流すら、厳粛に切り離されている。この構図を見ると、インドが成長した、というよりも、インドの中に、虫食いのように、ところどころに「圧縮された現代資本主義社会」が突如現れて、一部のインド人を取り込んでしまったかのようだ。

この本に描かれるいくつものテーマのうち、健康や趣味、娯楽にかかわる章は、比較的に無害で、「ああ、日本人と同じだな」というぐらいで気楽によめる。しかし、すさまじい教育バブル、そのプレッシャーの中で崩壊する家庭、そして自殺する若者、増える薬物依存とスピリチュアルへの傾倒…。こうした、現代インドの負の連鎖は、孤立したゲーテッド・コミュニティの中でこそ著しい。貧困に苦しむ「塀の外」から自らを切り離した「経済的勝者」が、結局手にするものは、一体何なのか。

「ここには全体像というものがありません。周辺に与える影響や周囲とのつながりといった問題が考慮されていないのです。こうした街は“孤島”になることを奨励されていると言えます。」(アヌラーグ・チョウフラ氏のことば。p21)

この間、奈良のフォーラムで、『ミーツ・リージョナル』を長年編集し、街を見続けてきた江弘毅さんが、「助け合いの関係性を持たず、おひとりさまになったら、全て金で買うことでしか賄えない。それはきつい」ということを話されていた。孤立していく人々が、金で買うだけの金を持てない恐怖、そしてその現実に直面したとき、そこには何が待っているのか。

『インド人のことはインド人に聞け!』というタイトルだけれど、この本に登場する多くの物語は、インド人でなくても起こり得ることだと感じた。込み入った沢山の課題を抱える我ら日本人、それよりも圧縮された時間軸で多くの問題に直面するインド人。そして、これからVISTA諸国や、後発の経済発展を遂げる国々で、同じように、歪みに揉まれながら社会が変容していくのだとしたら、そこにわずかでも真っ当な、ひとが生きていくしくみを生み出したいと思う。

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