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ほぼ日・永田さんが書く「福島の特別な夏。」の読みどころ

久しぶりに「ほぼ日」の泣ける連載を読んでいます。

高校野球×震災・原発という二軸で綴られるコンテンツ、『福島の特別な夏。』は、「夏の甲子園」の福島県大会の模様を、12回連載(まだ続いていますが)で描くドキュメンタリーです。単なる野球の記事ではなくて、「取材過程」そのものがコンテンツになっているところが、「ほぼ日刊イトイ新聞」らしい面白さです。本連載の書き手、元ファミ通コラムニストの永田泰大さんは、膨大な読者メールをひょうきんな文体で編集する「観たぞ!バンクーバーオリンピック」などの印象が強い人なのですが、「福島の特別な夏。」では、永田さん個人としての逡巡や苦悩がストレートに綴られます。

そうして、福島について、その場にいた仲間たちと、
知っていることをさまざまに話すとき、
ぼくの口から、つっと、糸口が出たのだ。

「福島県の高校野球もたいへんなんだ。
 春の大会も、東北大会も、中止になっちゃったんだ」

そう言いながら、もう、こころは動いていた。
そのまま自分でことばを続けた。
そうだ、それだと、もう決めていた。
ぼくは言った。

福島の甲子園の予選を、追いかけてみようかな、と。

(中略)

福島について、考えることは難しい。
ぼくには、知識も経験も圧倒的に乏しい。
はやくよくなりますように、と曖昧に願うだけでなく、
なにか行動を起こしたいけど、
どうしていいのかわからない。

けれども、ひとまず、「わからない」まま、
それとは別なところに見いだした
出っ張りに手をかけて
ぐいと身体を動かしてみようと思う。

(中略)

あらためまして、
担当は永田泰大です。
少々、個人的なコンテンツになりますが、
どうぞよろしくお願いします。

個人的なコンテンツ、だから面白い。
聖光学院の地区優勝までを追った前半12回連載の中から、個人的な「泣いたポイント」を4つ紹介します。

(1) 福島県高野連理事長・宗像さんのストーリー

連載の皮切りとなる #2 は、福島大会開催の背景を、高野連にインタビューするところから始まります。福島地域の強豪校の概要、「サテライト校」の存在、「相双連合」の誕生など、福島大会を語る上で必要な基礎データが、インタビューの形で語られるのですが…

宗像さんは、
甲子園準優勝チームの一員なんですよね?

宗像
「はははは、ええ」

――#02 福島県高校野球連盟

終盤に語られる宗像さんのエピソードは、この連載がやはりただの取材記事ではないと感じる、「個人的に一歩踏み込んだ」ストーリーでした。「高野連の理事長」という肩書きから受けるカタイ印象を、「高校球児」の姿を重ねることで一気にぬぐい去る。永田さんは#12で決勝が終わった後、優勝チームの選手や監督に寄って行くのではなく、まずこの宗像さんに話をしに行きます。宗像さんの存在によって、「福島大会」を俯瞰した軸がすっと通っているような印象を受けました。

(2) 相双連合の「再会」シーン

双葉翔陽高校と、富岡高校と、相馬農業高校の3つの高校から成る合同チーム、相双連合。原発事故後の緊急避難で離れ離れになった生徒たちが、相双連合の試合を媒介として再開を果たす…。多くのマスメディアも取材に殺到し、記事も書かれているテーマではありますが、これにも永田さんは真摯な観察を続けます。

照りつける陽の下を、たくさんの人が行き交う。
その混雑のなかで、ぼくはこんなことばを聞く。
そしてまた、ある現実に直面するのだ。

「先生、ひさしぶり!」

(中略)

喜びの悲鳴をあげて、ぎゅっと抱き合う女子生徒たち。
涙と、笑顔が、くるくると入れ替わる。

――#07 相双連合対喜多方高校

永田さんが文章の中で、福島の状況に対してことさらに悲しんだり、怒ったり、「こうすべき」という意見を述べたりはしていないように思います。少し演出的ではあるけれど、目の前にある事実を、丁寧に語り起こしていく。それを読んで、読者であるわたしは、永田さんの目線に共感したり、違うことを考えたり、さまざまな「心の揺れ」を引き起こされているような気がします。だから、どう、というところまで、何かすぐに変わるわけではないのだけれど。

(3) 南会津高校への視線

連載的には、圧倒的な強さを誇る聖光学院のことも大事なのですが、南会津高校への取材と紹介は、本当にユニークな着眼点だと思います。

3年生、3人。
2年生、0人。
1年生、5人。

‥‥8人じゃん。足りないじゃん。
えっ、残りはスキー部員がヘルプ?
それが、南会津高校である。

――#05 南会津高校

「スキー部」という響きがことさらひょうきんに聞こえるけれど、「みんな中学校で(野球を)経験して、会津大会や福島県大会に出ていたような子」と聞けば、そういうのもありかあ、と素直に読める気がします。試合の方はあっさり負けてしまうけれど、事前取材・観戦記を通じて、永田さんが心から南会津高校野球部のファンになって、応援しながらシャッターを切って文章を書いていることが伝わってきます。

数多くの高校の中から、恣意的に取材対象を選んで、「勝手に肩入れ」をして書くなんて、大きいメディアとしてはいろいろ葛藤もあるんだろうけれど、「好きだから書く」という基本姿勢のようなものがにじみ出ているような印象を、南会津高校の話からは強く受けました。

(4) 選手宣誓

12回の連載は、ちょうど頭5回を「事前取材編」、後ろ6回を「観戦記編」とする構成になっていて、まさにその折り返し地点となる#6「開会式」の最後の最後で、選手宣誓の全文が掲載されています。さらっと「全文を掲載しますね」と書かれているのですが。

…選手宣誓が、こんなに自由な、短い言葉の中に、濃くて強いメッセージを込められるものだということを始めて知りました。この「全文掲載」は、本当に価値のあるものだと思いました。スポニチにも出ていたようですが、白地に明朝でこまめに改行し、美しい写真が並ぶ、紙面デザインのすべてが、言葉を際立たせているような気がします。なにはともあれ、必見です。

* * *

この連載を読んだことで、「ほぼ日の永田さん」という、書き手としてのをまたひとり得られたことが、自分にとってとても大きなことでした。こういう真摯な取材をし、誠実な文章を書くことを、常に忘れずにいたいと思います。

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