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メディアラボのCésar Hidalgo(セザー・ヒダルゴ)氏ってどんな人?

昨日(2012/9/19)の朝9時半から、渋谷Loftwork LABにて、ボストンからやってきたCésar A. Hidalgo氏が1時間のトークセッションを持ってくれました。わたしもFacetime越しに聞いていたのですが、

 

と社長が嘆くくらい難しい講演で、残念ながらほとんどついていけず。。(涙)

でも、彼は「MITメディアラボの中で、最もワクワクする教授の一人」と評されるほど、期待されている若手研究者。
くやしいので、公開情報から、どんな研究をしている人なのか、また、彼の研究からどんな示唆を得られるのか、少しまとめてみました。

※主な出典はCésarの公式サイトと、The Atlas of Economic Complexity (PDF) より。

※朝セッションのサマリーは、@ryu1023が見事にまとめてくれているので、そちらをご覧ください。
MITの研究を聞きにLoftworkへ

プロフィール

CesarAHidalgo profile photo 3

César A. Hidalgo(セザール・イダルゴ?セサル・イダルゴ?Loftworkのイベント案内では「セザー・ヒダルゴ」ですが、スペイン語読みだときっと「セサル」なんですよね。。)氏。
1979年チリ生まれ、32歳。

チリ・カトリカ大学を経て、米ノートルダム大学にて、Ph.d(物理学博士)。博士課程のとき、Center for ComplexNetwork Research(CCNR)というところで、アルバート=ラズロ・バラバシに師事(バラバシは2002年に出たネットワーク論の名著『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』の著者です)。複雑系・ネットワーク理論の専門家であることがわかります(統計物理学者という紹介もある)。

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卒業後、ハーバードケネディスクール(HKS) 国際開発センター(CID)フェロー。HKSはハーバードの「公共政策大学院」で、ここで「開発経済」(新興国や発展途上国の経済成長に関する学問分野)にネットワーク科学を掛け合わせた領域を専門とし、2008年夏にMIT Media Labに移ってからも、この分野に継続的に関わっているようです。César氏の関わる研究をまとめた冊子 “The Atlas of Economic Complexity” の筆頭著者、リカルド・ハウスマン氏はCIDの現所長で、研究自体もCIDとMIT Media LabのMacro Connections(Césarがリードするグループ)の共同名義ですね。

彼は英国WIRED誌の2012年版「世界を変える50人(50 people who will change the world)」にもJoi Ito推薦として名前がリストされており、経済学にネットワーク科学そしてデータ解析を組み合わせたアプローチが、高く評価されているようです。

Diversity(多様性)とUbiquity(遍在)

Césarの提唱するEconomic Complexity(経済の複雑さ)を理解するための基礎概念がこれ(図版はATLASのPDF21ページより引用)。

Diversity

TEDxBostonの講演では「レゴ理論」と題し、「レゴのパーツをたくさん持ってる人ほどいろんなモノが作れる」と説明していましたが、図は「国」を主語に、「レゴをたくさん持っている国=いろいろなものを作れる国=Diversityが高い」という関係を示しています。一方のUbiquity(遍在:ユビキタス(ubiquitus)の名詞形です)は、「製品」の側を主語に、値が低いほど、一部の国にしか作れないものであることを示しています(付加価値や加工度に近いものと理解)。

Economic Complexity Index (ECI)

Graph

28ページのこのグラフ(Figure 3.1)は、横軸に経済の「複雑さ指標(Economic Complexity Index = ECI)」を、縦軸に「GDP per capita(1人あたり国内総生産)」をプロットしたもので、R^2(相関係数)が高い=2つの指標値に正の相関があるよ、と説明している図です。

ECIの算出式は、

Eci

…という感じで泣きそうになるのですが、「複雑な製品」を作れる国ほどECIの値は高くなります。ECIが高いほど、GDP per capitaが上がる、つまり経済発展が進むということですね。(このECIに相当する概念を、朝セッションではCrystallized Imagination(CI)と呼んでいたような??)

ここで注意するべきは、ECIはGDP per capitaが高い/低い「現状の説明」ではなく、「今後どうなるか」の傾向予測指標だ、という点です。ここが最大のポイントっぽいです。ECIの値、各国が生み出す(この研究では「輸出」のデータを使っていますが)製品の複雑さを観察すれば、その国の経済発展傾向が読み取れるということでしょうか。

そもそもEconomic Complexityって何?という説明は、ATLAS冊子の前段にいくつかキーコンセプトが出ています。

  • “Products are vehicles for knowledge”(製品はさまざまな「知識」が集約されたもの、知識の入れ物ととらえられる)
  • ある製品の生産に必要な知識のうち、一部が欠落していると、その製品は生産できない
  • 個々人の能力(capability)には限界があり、Diversityは「社会(国や組織)に埋め込まれた知識の量」によって決まる
  • 単一領域の知識だけでは十分機能せず、その「前後」や「隣接領域」をつなぐ知識(chunks of knowledge, relevant knowledge)が必要
  • 特定の能力を持った人の数を「Personbyte」という単位で測り、Personbyteを多く集められる(より多彩な能力を持った人材を抱える)国/組織はよりComplexになる
  • 知識には「形式知(Explicit)」と「暗黙知(Tacit)」があり、暗黙知の伝達は高コストなので、これが制約条件になる
  • 有用なナレッジが多く組み込まれている国/組織ほどよりComplexになる

そして、既に持っている知識・既に生み出せる製品の「隣接領域」に手を伸ばしていくことが、ECIを高めるための的確なアプローチだと説明します。「シャツ」と「ブラウス」は近い製品、「シャツ」と「車」は離れた製品。今あるストックを生かして幅を広げていくことから、複雑性を高めていくことが有効なようです。

The Product Space

この「隣接領域」という話から、製品(product)同士の「近さ(Proximity/Similarity)」を解析し、可視化したのが、The Product Spaceです(超頻出)。

Tree

…正直、このグラフィックの読み取り方はいまいちわからないのですが、国ごとに時系列でThe Product Spaceのグラフィックを追って行った時、黒いノード(輸出が強い製品)の密集度が上がるほど、知識の近接領域への波及が進んでいる=ECIが上がって発展傾向が加速する、というような感じかと思います(曖昧)。

難しいですねー。(正しい答えが分かったら随時追記します)

この解析は、国際標準の貿易データベース(2000年代のソースはUN COMTRADE)を利用し、統計的に処理して作成されています。プロジェクトのサイト atlas.media.mit.edu では、これ以外にも様々な角度からビジュアライゼーションを行ったもの(Tremapなど)が紹介されています。世界の産業構造・貿易構造の学習にも役立ちそうです。

さて、この辺りのキーワードをなんとなく眺めた上で、TEDxBostonの18分間のスピーチ、”Global Product Space“をご覧ください(字幕無し。。)。Diversityの概念とThe Product Spaceが紹介されています。

なぜ昨日、Césarはロフトワークで話したのか?

制作会社としてのロフトワークは、MIT Media Labと強いつながりがあるとはいえ、「開発経済学の話」はピンと来ないし、「ビッグデータとスモールデータ」という切り口も(個人的には)いまいちしっくりきませんでした。

しかし、「組織(会社組織だけでなく、外部のクリエイターネットワークとのコラボレーションも含めて)にembedされた知識の量が『複雑さ』を高め、発展のドライバーになる」という話からは、非常に刺激を受けるところがありました。ワークショップや映像制作などの「近いけどちょっと違うケイパビリティ」を持った人が加わったり、学んで成長することを繰り返すことで、しなやかで持続的な組織を維持でき、イノベーションが生まれうる、という連想は、わくわくするイメージでした。

Joiこと伊藤穣一氏も、2011年秋に「組織の認知的限界(原題:The Cognitive Limit of Organizations)というエントリーの中でCesarに触れながら、「コラボレーションに対する障壁は企業の発展を阻害する致命的な制約となろう」として、「機敏さ、状況判断、そして強いネットワーク」の重要性を紹介しています。「ネットワーク」で仕事をする業態としては、ネットワーク科学の最先端から学ぶものは、あらためて非常に大きいのかもしれません。

この話にピンと来たら…

最後に参考文献・参考動画のご紹介。

開発経済学と「可視化」といえば、ハンス・ロスリングのTEDTalkを抜きには語れないでしょう。アナログの力がすごい。NHK Eテレの大人気番組「スーパープレゼンテーション」のトップバッターでもありました。

また、David McCandless(デイビッド・マッキャンドレス)という人も、”The Beauty of Data Visualization(データビジュアライゼーションの美)と題して、面白いデータをいろいろ使って可視化したTalkをしています。お気に入りの1本です。

そういえば、スーパープレゼンテーションの解説に出ていた、SFCの井庭崇先生は、Cesar氏の友人でもあるそう。井庭先生はまさに複雑系の専門家で、入門書も出しています。キーワードのキャッチアップにはよいのではないでしょうか。

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実は、この「複雑系」と「システム科学」の領域は、大学時代に一番専攻したかった領域でした(成績点が0.3点だか足りなくて落選。。数学で挫折していた可能性は相当高いけど。。)。でも、卒業後もこうしてたびたび接点ができてきているご縁に感謝しつつ、César氏の活躍、これからもウォッチしていきたいと思います。

次回エントリーではNCC (New Context Conference 2012 Tokyo)の予習編をご紹介!

2 Comments

  1. The Product Spaceの所とちゃんと読んでみました。
    経年変化で黒枠のノードは輸出した製品を、
    黒で塗りつぶされたノードは新たに輸出を始めた製品を示しているようです。

    論文の中で、国が発展する様子をThe Product Spaceで表現することはできたが、
    一般則は導き出せていないことが書いてあります。まあ、ECIを製品のネットワークで、
    説明するには外部変数が多すぎ、多分無理です。
    でも、面白い研究だとは思います。

    以下、The Product Spaceについて書いてみました。
    う~ん、わかりにくい。。
    ===========
    The product spaceは、2つの製品の類似度を示したものです。国ごとに時系列でThe Product Spaceを追っていくときに、輸出していた製品に注目します。1975,1990,2009と順に、輸出していた製品と類似度が高いものが新たに製造されるようになることがわかります。
    セザ氏は”ある国が発展し、他が発展しないのはなぜか?”という問いに、
    The Product Spaceの構造によって、発展する可能性がある国の特徴は説明することができました。しかし、各国でThe Product Spaceは多様で環境が異なり一般則はまだありません。今、明らかになりつつあるとセザ氏は述べています。

  2. ありがとう!やっぱり、「近接領域の製品に生産が波及していっている場合、Complexityが上昇傾向にある」っていう説明のVisualizationだよね。勉強になりました!

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