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エスノグラフィーと文章修行

リサーチ(特に定性調査)の基礎を勉強するため、佐藤郁哉一橋大学教授の『フィールドワークの技法 問いを育てる、仮説をきたえる』を読んでみました。

これぞ、教科書!!

フィールドワークの技法―問いを育てる、仮説をきたえる
佐藤 郁哉
新曜社
売り上げランキング: 7,606

こんなことを知りたいなと思っていたのですが ↓↓

  • 調査対象者のリクルーティング
  • デプスインタビューのセットアップと流れ
  • インタビューの組み立て方
  • 失敗しない記録の取り方
  • 謝礼等の扱い
  • 「アドホック」インタビューの方法

↑↑
全部入ってました。

取材対象者との関係づくりに近道なし。ツテをたどる、街角に立つ、依頼文を送る… ケースバイケース。

◎インタビュー以前に、何より「先行研究をしっかり学ぶ」「下調べ」が大前提

◎参与観察中の調査者はすごくストレスの溜まる立ち位置なので、日記を書くといい(自己治癒効果)

著者が、京都の繁華街である河原町蛸薬師を夜な夜な徘徊して、暴走族「右京連合」のメンバーと出会い、関係を深めながら調査を進めていく(時折失敗もする)過程を追体験することは、とてもリアリティのある学びでした。350ページ一日で読んだ。


そして、この「エスノグラフィ」的リサーチ業務を手がけるために、予想していなかった最大の課題は、「書くこと」でした。特に、『ディテールの記述力』

p169から、実に7ページに亘り、演習課題として「献血をした」40分間の「フィールドノーツ」(独特な表現だが、平たく言うとフィールドワーク中に観察した事柄を書き留めたもの)の例が出てきますが、この細かさに圧倒されます。本書の実質半分程度が「書くこと」の技法解説に充てられているように感じますが、いくつか粒度や役割の異なる「書き付け」を多く残すことの重要性が繰り返し語られます。

  • 現場メモ
  • 清書版フィールドノート ★これが超大事
  • 注釈
  • 覚え書き(統括ノート)

この本は「フィールドワーク」というタイトルでありながら、文中では「エスノグラフィ(民族誌学)」という表現が好んで使われます。どちらかといえば研究目的(なので最終成果物がかちっとした「報告書」や論文になる)の手法ですが、デザインリサーチでも最終的には「書き上げる(write up)」段階が必ず含まれるわけで、どうしたって避けて通れないのが「書く」という過程。

佐藤先生の「清書版フィールドノート」例から一部抜粋します。

受付左手の比重測定用の机に向かう。ピンクの看護婦の制服を着た女性が一人机についている。
  看護婦:「それでは、両方の腕を見ます」
というので、郁哉、両腕を出す。看護婦、左手を使う旨を郁哉に告げ左腕にゴムバンドを巻き、注射の針を刺す。20秒ほどで比重測定用の採血は終わり、看護婦2つつながったシールの片方を試験管に貼り、もう一方を書類に貼る。
  看護婦:「それでは、あそこで血圧をはかってください」と言って左手の机を指差し、書類を郁哉に渡す。

たった1〜2分のできごとに、この粒度の細かさ。

“清書版フィールドノート”は、「未来の自分」を想定読者とし、現場の情景を的確に思い出すためのツールです。この記述はあくまで「比較的詳しい」参考例として掲げられ、演劇脚本風の書きぶりも佐藤先生独特のものなので、これをまねる必要があるわけではない。

でも、「いざとなればこのくらい細かく書ける」だけの観察眼と言語化力が、リサーチャーには求められるということを痛感しました。

「物書き」としてすさまじい腕を持つ棚橋弘季さんの仕事ぶりしかり、ミャンマーのレポートを「エディターを1人入れたけど基本的には自分(たち)で書いている」というヤンしかり、書く能力はリサーチの「アウトプット側」の必須スキルであり、品質の源泉でもあります。

実は「文章修行」は、定期的に(発作的に?)自主トレーニングしているのですが、改めて取り組まねばと思いました。バイブルであるナタリー・ゴールドバーグ『魂の文章術 (Writing Down the Bones)』も、主眼は「ディテール」を書くことの鍛錬。この本はどちらかというと「作家向け」の本だと思っていましたが、デザインリサーチに関わるクリエイティブディレクターにとっての価値を再認識しました。

魂の文章術―書くことから始めよう
ナタリー ゴールドバーグ
春秋社
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佐藤先生の本にも「文章修業」(ギョウの字が違うけど)という表現が登場し、優れた民族誌の出版が少ない日本においてできることとして、「良質なルポルタージュを読むこと」が挙げられていました。立花隆、猪瀬直樹、沢木耕太郎。これも、もう一つの研鑽テーマとして。

学ぶことは、とどまることを知りません。

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