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「旅人」ヤン・チップチェイス氏に、ユーザー調査のキモを学ぶ

『サイレント・ニーズ――ありふれた日常に潜む巨大なビジネスチャンスを探る』(英治出版)の著者、ヤン・チップチェイス氏が渋谷オフィスに来ていたので、プロジェクト企画の打合せに混ぜてもらいました。以前OpenCUでのトークは聞き逃しましたが、著書(原題:Hidden In Plain Sights)、 ミャンマーの公開レポート (Afford TWO, Eat ONE : 関連記事)、2007年のTEDTalk、その他オンラインで入手できる記事と、きょうのディスカッションで感じたことを中心に、ヤンが「デザインリサーチ」をどのように組み立てているのか、学びをまとめます。

Pop-up Studio (即席スタジオ) とコロケーション

世界のさまざまな地域を対象とした現地調査で「拠点」となるのが、 即席スタジオ(Pop-up Studio) です。これはホテルではなく貸し家を借りて共同生活をしながら、そこを「作戦室」として、アウトプットを集約していく場所にするアイデアです。

確かにホテルの個室はディスカッションに不向きなことが多いし、「同じ釜の飯を食う」共通体験は何よりのチームビルディング。最近は Airbnb を使って一棟貸しの物件を探せば、即席スタジオにぴったりの場所が手軽に確保できそうです(いい時代!)。

こういうスタジオを借りて暮らせばいいのか

こういうスタジオを借りて暮らせばいいのか

当然の前提ではあるけれど、いつもの勤務先を離れて共同生活をしながらリサーチに没入するためには、「専従・シングルタスク」の状態を確保することが不可欠(複数のWeb制作案件をかけもちしながら、、なんてとてもできない)。これ、けっこう贅沢な前提です。でも、精鋭のチームメンバーが同じ場所に集まり、「フロー状態」でプロジェクトに取り組むことではじめて、価値のあるインサイト(洞察)を得ることができる。

ボスが「クライアントの担当者がどうしてもチームに入りたいって言ったらどうする?」という質問をしていましたが、その答えは「他のメンバーと同じ時間コミットし、作業を分担するなら」という明確な(そしてけっこうハードルの高い)条件でした。チームとしての一体感が、デザインリサーチ活動を成功させるキモの一つであるわけです。

現地パートナーと大学生の活用

リサーチの対象となる地域で、調査対象を見つけ、良好な関係を築き、調査を成功させるためには、現地でのコーディネーターとの協力が不可欠。ミャンマーのプロジェクトでは、現地のNPO(デザインファームだと思っていたけど違った)であるProximity Designsの3人が大きな役割を果たしたことでしょう。通訳・ガイドの機能はもちろん、「文化的コンパスの微調整(Calibrating cultural compass)」をする上でも、パートナーの存在は重要です。

students

書籍でも書いている通り、ヤンは「学生」の活用を強く勧めていました。記録やロジスティックスのアシスタントとして人手は必要で、人数がいれば調査を「分担」することも可能。さらに、調査対象者と属性が近い学生を選んでプロジェクトメンバーに組み込めば、一緒にプロジェクトを進める過程で「24時間観察できる」という特典も。確かに、例えば京都近隣なら京大・京都造形大・精華大などからセンスのある学生を巻き込めると思うと、大学へのアプローチは、コスト面だけでなく多様性の面からも、メリットは大きそうです。

連続的なSynthesis (統合)

デザインリサーチを含むプロジェクトは、概ね以下のプロセスで組み立てられます。

  1. 調査(Research + Synthesis)
  2. レポート作成 (Writing)
  3. コンセプトメイキング (Ideation workshop)
  4. デザイン (成果物が何かはプロジェクトによる)

ここで “Synthesis” (総合、統合、合成) とは、リサーチ(デプスインタビューやアドホック〈通りすがりの〉インタビュー)活動を通じて集めた「素材」から、洞察(Insights)や発見(Findings)を導き出す作業を指しています。この Synthesis は、リサーチが完了した時に、間を置かず(いつものオフィスに戻ってからではなく、できれば最後の調査ロケーションにとどまったまま)行うことが重要。かつ、リサーチ期間中は「毎日の振り返り」を行って、調査の組み立て方を軌道修正することも必要です。この過程があるから、ヤンはリサーチの初期段階にコミットすることを非常に重視していました。

DHBRの記事に登場した「センス・メイキング」という表現も同じだと思いますが、リサーチの量が膨大になればなるほど、「発見」の難易度も上がるはず。でも、チームメンバーの良いところを引き出しながら、的確な「まとめ」をする過程こそが、デザインリサーチの本質的な価値であり、醍醐味でもあると思います。

Threshold Mapping (境界線マップ) とCJM

少し「納品」用の表現手法についても深掘りします。書籍第1章で「おっ」と思ったのはこの一文。

もし顧客の動向調査に基本となるフレームワークがあるとしたら、それはカスタマージャーニーマップづくりと言えるだろう。(p42)

“CJM”と略して呼んでいるカスタマージャーニーマップは、ここ数年、ロフトワークが手がけるプロジェクトにおいて頻出のメソッド(シニアディレクターの西本泰司が実案件でどんどん進化させている)。ユーザーの行動・思考・感情とインサイトを、時間軸に沿ってマッピングするジャーニーマップは、本当に使いやすい表現方法です。「ペルソナ」と同じく、適切なデータ(事実)に基づいたものでないと信憑性が落ちてしまうものではあるけれど、ヤンがこの技法を「基本」として挙げていたことで、アプローチとしていい線行ってるなと感じました。

th_cjm

その上で、代替手法として紹介されていた「境界線マップ」は、ユーザーの行動分析を次の段階に進める考え方といえそうです。

境界線マップは、ひとの行動の「トリガー」(どんなときに行動を起こすか)をあぶり出す表現技法。3本の折れ線グラフで描きます。

  • 1本目は「状態の変化」
  • 2本目は「最高境界線」
  • 3本目は「最低境界線」
  • 2本目と3本目の間が「快適ゾーン」

線の高低を描くのがとても難しそうだけれど。

境界線マップは簡単なものではあるが、人々が 何をして、何をしないか の理解を大きく深めることができる。人がどういうきっかけで快適ゾーンを飛び出してしまうような行動に駆り立てられるかを、そして何より、それはなぜかを浮き彫りにすることもできる。(p47)

ということで、こんど挑戦してみたい技法の一つです。

Wake Up With The City (街とともに目を覚ます)

「フィールドワーク」そして「旅」の楽しみ方としても使えるアプローチが、「街とともに目を覚ます」という方法。

街を観察するのに最良の時間は、世界中どこでも夜明け頃から数時間の間である。(中略)一日の始まりのほうがいつでも一貫しており、また厳格に動きが決まっていることが多い。地元独特の空気を吸収しようとしている私たちにとって、朝の通勤時間が始まり、街が脈動し出すこの時間帯には、短い時間で多くの人を観察しやすいという利点がある。(p152)

朝4時に集まって街に繰り出し、観察し、朝食を取りながら発見を共有する。これ、台湾合宿の前に読んでおいたらよかったな…。渋谷駅前のスクランブル交差点〜道玄坂下エリアも、7時前はけっこう面白い風景が見られますが、人が集まる場所はどこでも、すごく刺激的な発見があるのだろうと思います。早起き万歳。(そのためには早く寝ないと。。)

morning


ヤンの『サイレント・ニーズ』は、必ずしも「行ったことのない途上国の田舎に行かないと使えない」メソッドではありません。(旅人としてのキャラが強いし、知らない話が多いから印象に残るけれど)

身近な「ものづくり」や「コミュニケーション」を考える上で、その「受け手」がどんな人で、どんな行動を、なぜしているのか。それを考え、一歩深追いして観察してみる、という行動を少しずつしていけば、間違いなく新たな発見に出会うことができそうです。


追記:

それにしても英治出版のソーシャルイノベーション関連書籍は、どの本も本当に翻訳の質がいいし、しっかり編集が入っていて、安心して読めます。挿絵が一切ない原書に比べて、何枚かの写真や図が入っているだけで、すごく理解が深まりました。日本語で一冊、一周読んでおくと、ヤンの少し難解な(UK訛りの)英語も、だいぶわかるようになる(=英語の文献がインプットできる)ようになります。ぜひご一読を!

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“student” photo credit: via photopin cc

“morning” photo credit: Kicki via photopin cc

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