Pages Navigation Menu

For Creative Communication

『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』を読んで、今日から始める3つの実践

私淑する佐藤知一先生の著書『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』が発売され、さっそく読了しました。

世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書 ~グローバルなチャレンジを成功させるOSの作り方

佐藤知一氏は海外のプラント建設などを主業務とする日揮のPMで、ブログ「タイム・コンサルタントの日誌から」の著者。このブログは3年以上前からFeedlyで欠かさず読んでいて、PMに関するまとまった文章がなかなか読めない中、貴重な情報源になっていました。ブログに綴られてきたきわめて実践的な「PM技術論」が、若手PMの小川くん・森さんと「広田先輩」の鼎談形式でわかりやすく再解釈されたのがこの本です。

最初目次を見て「PMBOKの網羅的な解説本かな」と思いましたが大違い。むしろPMBOKでは形式的な説明しかないいくつもの方法論が、非常に実践的な具体例として紹介されていました。特に、私は今まさに1件イギリスの関連会社と切った張ったを繰り広げるPM案件を持っていて、今日から即使える学びがいくつもありました。本稿では特に「即活用」できそうな3つの方法を取り上げながら、この本の内容を紹介します。

「成果物」と「プロセス」の二軸で、ヌケモレのないWBSをつくる

本書で最も大きな学びだったのが、「アクティビティマトリックス」の活用です。
スコープ定義とスケジュール作成のために欠かせない「WBS = Work Breakdown Structure」は、プロジェクトマネジメントの核心で、「良いWBS」を作ることこそ成功の秘訣だと本書は説きます。そして、ヌケモレなく粒度が揃ったWBSを作る手順として、アクティビティマトリックスは有用。

matrix

図版出典記事:
海外プロジェクト・マネジメントにおけるシステムズ・アプローチとは 〜化学工学会展望講演(9/09)から

アクティビティマトリックスは、縦軸に「成果物」を全て洗い出した項目:P-WBS(PはProduct)を、横軸に「プロセス」:F-WBS(FはFunctional)をとり、掛け合わせた全てのマスを埋めていくことで、網羅的に必要なToDoを洗い出す手法です。本書では「冷やし中華の作り方」と「展示会への出展」を例に、まずはごく細かい単位で項目を洗い出した後、「適切な粒度のワークパッケージ」にまとめていく過程が紹介されています。この技法は計画時だけでなく、ポストイットを使った「参加型進捗管理の方法」として後段でも登場します。

ロフトワークではWBS作成に「Smartsheet」というオンラインスプレッドシートサービスを使っており、新規プロジェクトでWBSを作成するときは、過去の類似案件をテンプレートとして書き下ろしていくか、ボトムアップのブレストから組み上げるか、といったやり方をしています。ただ、これでヌケがないように精度を高めるにはどうすれば… と考えていたところで、二軸のマトリックスを埋めていくのは、時間がかかりますが確実な方法だと思いました。早速、いま抱えている2件のプロジェクト(1件は終盤、1件は序盤)で、マトリックスを再作成してみるつもりです。

興味深いのは、p93に書かれている、横軸の「F-WBS」は「会社としての大きなマスター体系を持っている」「異なるプロジェクトでも同じF-WBSコードを持っている」ということで、つまり「作る物は都度違っても、どのように作るかは組織の資産である」ということ。確かにWeb制作の典型的なワークフローは「設計〜デザイン〜コーディング〜CMS開発〜移行」というようにだいたい共通で、このあたりの社内ノウハウ集約が、PM力底上げのヒントになるかもしれません。

「積み上げ」と「逆算」の2方向からスケジュールを引く

WBSと密接に関わるスケジューリングの手法は、PMP試験問題でも頻出のネットワークダイアグラムを使って解説されますが、「バッファの積み方」を含む現実的なスケジューリングテクニックがあらためて整理された感があります。

schedule

図版出典記事:納期が延びる要因を指標化する - スケジュールのDRAGとはどんな尺度か

3章2項の冒頭には、いきなり「EF=最早着手日」とか「LF=最遅完了日」とかのPMBOK用語が出てくるので面食らいますが、これは「結局、スケジュール全体のバッファ期間を何日見ればいいのか」という現実的な課題に向き合うのに必要な概念だということが分かりました。スケジューリングの手順は次の通りです:

  1. まず「今日から最速で積み上げると、何日かかるのか」を積み上げ、ES/EFを埋める(フォワードスケジューリング)
  2. 次に「納期から逆算すると、いつ始めないと絶対に間に合わなくなるのか」を求める(バックワードスケジューリング)
  3. 「並列作業化」や「ゆとりの削減」などの手法を駆使し、スケジュールを整える

これも、いつも無意識に考えている気がしますが、行ったり来たりして時間を費やしがちなので、「まず前から、次に後ろから」という手順を意識すると、効率的にスケジュールが組めるような気がします。これも最スケジュールが必要なプロジェクトが2本あるので、意識してやってみようと思います。

ちなみに、「納期短縮のテクニック」として、ファストトラッキング(並列作業化)と、クリティカルチェーン法に基づくプロジェクトバッファの削減(ゆとりの削減)が紹介されていますが、クラッシング(コストやリソースを追加して、クリティカルパスの作業期間を短縮する)が入っていないのは、リソース追加投入してもスケジュールは短縮しないよ、という現実的な事情ゆえかもしれません。(笑)

イナズマ線による進捗管理

進捗管理では「イナズマ線」の活用法が紹介されます。これは多くのシステム開発系企業が普通に使っているかもしれません(何かのWeb記事で読んだ記憶がある)が、ガントチャート上の「現在日付」に線を引きながら、今日時点で遅れているアクティビティは左にずれる・巻いて進んでいるアクティビティは右にずれる、という形で進捗を把握する方法です。

inazuma

図版出典記事:イナズマ線と二重線 — 工程表のアップデーティングとは何か

上述したSmartsheetは「一本線」のガントチャートで(バー内部に進捗度を%表示する機能はある)、予実を別表示できないので、どうやって進捗(スケジュールの遅れ)を可視化すればいいか… という点悩んでいたのですが、やはりアナログにガントチャートを等倍で貼りだして、定期的にイナズマ線を引いていくというのが一番よさそうだな、と感じました(現在日付にマーカー線を引くのは最近やっていたけど、進捗を表現できていなかった)。PMP試験最頻出の「アーンドバリューマネジメント(EVMS)」も丁寧に紹介されつつ、色々制約もあるということで、無理にEVMを使わず、ガントチャートベースの進捗管理でよさそう、ということも納得できました。


佐藤先生はブログにも「タイム・コンサルタント」と冠し、タイムマネジメント系の著書もあるように、スケジューリングがお詳しい方だと思いますが、多岐に亘るプロマネスキルの中でも「WBS」を核として、スコープ計画とスケジュール計画を綿密に進めるという形で編集されているのが、とても個性的かつ実践的な本だと感じました。

また、「世界を動かす」と書名にある通り、著者の経験を踏まえて「海外とプロジェクトを行う時」を想定した記述になっていますが、これは「日本企業の中にいるとプロマネの必要性が低いけれど、外在するステークホルダーとの関係に注目すると、プロマネの有用性がよくわかる」という意味で、海外との仕事を特にしていない人にも非常に有用な本だと思います。

コメントを残す