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IDEOに発注できるRFPの書き方 – ボストン市boston.govリデザインPJを例に

米国東海岸・ボストン市の公式サイト boston.gov が昨年リニューアルオープンし、そのプロセスにデザインファームIDEOが関与して、いろいろオープンにしていることが話題になっています。

Boston_gov.png

IDEOが参加。ボストン市「Boston.gov」の創造的なリデザイン|ビジュアルシンキング(『たのしいインフォグラフィック入門』櫻田潤さんのブログ) 

公開されているプロセス資料がどれも面白いのですが、中でもRFP(Request For Proposal : 提案依頼書)》が面白いです。

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このRFPはヤバイ!!

これほどまでに与件が明確で、かつ応札者の「本気度」を要求するRFPは見たことがありません。アメリカの契約文化や、アメリカ地方自治体ならではの法的ルールに関連するものもあると思いますが、とはいえ、日本の発注者でこれだけ明確な文書を書ける人は稀だと思います(私はいずれこういう発注者をやりたい)。抄訳を含めかいつまんで紹介しながら、《よいRFP》に必要な要素について考察します。

背景と目的 – 発注者の熱量を示す言葉

私はまず3ページ目の “Overview(概要/はじめに)” のテキストの濃さにやられました。

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Picture a government website. Clunky? Confusing? Bland? Let’s change that picture.

We believe Boston.gov can be beautifully designed, delightful to use, and thoroughly useful. We’re looking for a design team who shares this vision. We seek a partner willing to break stale convention, eager to challenge assumptions, and relentlessly focused on puttng the user at the center of their work.

Read on if you think that partner is you.


(訳)行政のWebっていったらどんなものを想像しますか?ダサくて、ごちゃっとして、退屈な?そのイメージを変えましょう。ボストン市のWebは、美しくデザインされ、使って楽しく、徹底的に使いやすいものにできる。このビジョンを共有できるデザインチームを求めます。私たちが求めるパートナーは、旧習を打破し、前提を疑い、徹底的に市民/ユーザーを仕事の中心に考えるようなチームです。これに該当すると思ったら、続きを読んでください。
※太字筆者

このあとプロジェクト背景として、2015年冬の第一弾公開/700万UU/5000ページ/Webの主要コンテンツ・機能/ボストン市側のWebチームの体制(Chief Digital Officerの指揮下、中にPM・デザイナー・SNSの主担当がいる)、CMSのユーザーが50部署20人に上る、といった情報が記載されています。また、CMSの刷新(Drupalマガジン”雫”の記事によると、Tridionからの乗り換えらしい)と、UX・ビジュアルデザイン面での刷新を主眼とすることが語られます。

とはいえ大事なのは端的に表現された明確なビジョンです。たった69語のOverviewに、プロジェクトゴールが濃縮されていることから、「このドキュメントはちょっと違うぞ」という印象を受けました。

プロジェクトスコープ – 納品物がWebサイトだけじゃない

プロジェクトスコープの明快さにも驚きます。5つのスコープが記述されています。以下抄訳:

  1. Understanding Our Users : ユーザー理解。成果物として、AsIs(今の)/ToBe(新サイトにおける)ユーザーリサーチのサマリーと生データの両方。
  2. Developing a Design Standard : デザイン標準の開発。成果物として、(1) サイトアーキテクチャ(構造)、(2) 5-10セットの「ユーザージャーニー」、(3) ブランドマニュアル。
  3. Creating Key Pages & Templates : 主要ページ・主要テンプレートの制作(末尾に想定テンプレート一覧の記載あり)
  4. Supporting Continued Iteration : 第一弾リリース以降の継続的改修。ユーザーテストの実施と市民の声の反映。
  5. On-going Services : 公開後2年間の保守サポート。

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まず、1番で「ユーザーリサーチ」のフェーズを区切った上で、納品成果物を明記していることに驚きます。ロフトワークのプロジェクトでも、「要件定義フェーズ」のアウトプットとして自主的にリサーチ結果をまとめたり、リサーチ単品のプロジェクトを行ったり、そういったプロジェクト構成をベンダー側から提案することはありますが、RFPに明記してある点に、冒頭にも書かれている「とことんユーザーを中心に考える」姿勢が現れていると思いました。また、詳細スコープの項目には「Support(支援)」という見出しで、市側が提供できること:リサーチではユーザーテスト用の会議室の貸し出しや、「311/hotline」というサービスなどを使って、市民とチームを橋渡しする部分で市側がサポートできることが明記されています。

2番の「デザイン」の落とし込みが、いわゆる「トップページデザイン」の前に、《アーキテクチャ》《ユーザージャーニー》《ブランドマニュアル》という形を指定していることも興味深いです。ユーザージャーニーは、CJM = カスタマージャーニーマップという形で、最近よく用いられるアプローチですね。

よくやるWebリニューアルプロジェクトでは、それこそ「古い慣習」的にトップページデザインから始めちゃいがちなんですが、確かにWeb全体を見ると、ストラクチャと全体のレギュレーションが先にあるべきで、トップは最後に来るものなので、この進め方が(おそらく難易度は高いけれど)とても妥当なフェーズ分けだと思いました。3番の「テンプレートデザイン」というのも、CMSをよくわかっている発注者らしい書き方です。

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Iteration = 反復開発を軸とした進め方は、近年「アジャイル開発」や「リーンスタートアップ」でも注目されている手法で、先にリリースして後からフィードバックを集めて直していくスタイルが定着していることがよくわかります。IDEOが結果的にそれを美しいオープンプロセスにまとめ上げたとはいえ、RFP時点でこのプロジェクトデザインがなされていることが印象的です。

「本気度」を試す提出物規定

提案者に求めるコンペ時の提出物一覧の中には、いくつか見慣れない項目が含まれます。

その1つは項3.5「Reference」で、《クライアントからの推薦文》を意味しているようです。3社分も集めないといけない!転職のときにRefernceを見るというのは外資系とかでわりとあるのかなーという感じですが、提案コンペでクライアントからの推薦文を出せってけっこうハードル高い感じです。でも、推薦文を書いてくれるようなクライアントをいくつも抱えるファームは絶対当たりなので、これは(日本の商習慣的には合わない気がしますが)やってみたい方法でもある。

もう1つは項3.6「Cover Letter」で、「添え状」ってなんのこっちゃと思いますが、これは《提案書にファーム(会社)の代表者のサインが必要》という意味。会社として承認された提案であって、会社として本気で取り組みますよという姿勢を見せろということのようです。この辺りはアメリカっぽいというか。代表者の承認って、必ずしも全プロジェクト提案にしないと思いますが(レビューだけしてプロデューサーが自分の責任で出したり)、本件はわりと大きいプロジェクトでもあるし、間違いのない見積であることを保証させる良い方法だと思います。《カバーレターに代表署名入れる》って、絵的にもかっこいいですね。

提案規定が “Technical proposal” と “Price Proposal”、提案内容と見積を明確に区分して、Techinalの方にお金の話を絶対入れちゃダメ、と書いてあるのは法的な縛りのようです(未精査)

その他、提案骨子のリストを見ると、“Inspiration for This Project(このプロジェクト要件にぴったり合致すると思われる参考サイトを挙げてください)” とか、選考のプロセスとして市のWebチームと3時間のデザインワークショップをやって働きっぷりを見るよ、とか、色々敷居の高いことを書いてありますが、これをクリアできる提案はとても明快なものであると思います(良い問いは良い提案を促す)

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p20に、このプロジェクトの想定費用は20-30万ドル(3000万円ぐらい)と書いてありますが、これは非常に妥当感のある設定だと思いました。ロフトワーク的には、この提案は絶対出したいやつだと思います(笑)。IDEOの他にどんなプレイヤーが応札したのかとても気になります。デザインリサーチができて、5000ページの移行を含むCMSリプレイスができて、クリエイティブの品質が高いところって…?

Who did it?

さて、このRFPを発行し、Boston.govのリデザインプロジェクトを主導したのは、ボストン市のInnovation and Technologyの部門で、たぶん2人のキーマンがいます。

Lauren_Lockwood___Boston_gov

Webを主管するCDO = Chief Digital Officer(チーフデジタルオフィサー)のLauren Lockwood(ローレン・ロックウッド)さんは、ニューヨーク州ヴァッサー大学2008年卒だから、いま31歳ぐらい?(若い!でもLinkedInは年齢表示出ないですね)

ハーバードMBA、金融大手モルガン・スタンレーを経て、2014年12月に市長から市の新ポジションにスカウトされた人物です。30前後でこれだけのプロジェクトを回せるというのは、大学時代からかなりデジタル・クリエイティブの第一線を見てきた人なのではないでしょうか(うちにもSFCや千葉工大出で、HCDとかデザイン思考プロセスに超詳しい若手が多数在籍しています)。

Jascha_Franklin-Hodge___Boston_gov

もうひとり、CIO = Chief Information OfficerのJascha Franklin Hodge(なんて読むんだろう。ヤーシャ・フランクリン=ホッジ?)さんも2014年6月に任命された人物で、MIT卒。テクノロジーベンチャーBlue State Digitalを2004年に立ち上げ、Code for America、そしてオバマ大統領の2008/2012の選挙キャンペーンにも関与したという、デジタルのエキスパート。この市役所人材の厚さは何なんでしょうね…(この二人を任命したMartin J. Walsh市長もけっこう面白い人物に違いない…!)

このBoston.govのプロジェクトについては、ブランドガイドラインやプロジェクトプロセス、CMS基盤として採用されたDrupalについてなど、いろいろ深掘りをしてみたいのですが、ここまで、まずは一番心打たれたRFPについて。かりに、RFPの記述が曖昧な(または明確なRFPが提示されない)プロジェクトでも、計画段階で、発注者の意図をなるべく明確に、高濃度の言葉に落とし込めると、よいプロジェクトになると思います。

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