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バズった広告で知る大分別府温泉

こんど社員研修合宿で行くことになった大分・別府についてリサーチを始めたところ、別府の地域PRで「バズった」広告が立て続けに出ていることを知った。リアルタイムにSNSで追っていた人からすると今更感があると思うが、別府が「どう知られたいか」を知る一つの視点として、近年話題になった別府の広告・webプロモーション作品を紹介する。

湯〜園地計画 (2017/電通+ドリル)

いままさに「実施中」のwebプロモーションが、「湯〜園地計画」だ。これは市内にある老舗遊園地「ラクテンチ」を舞台に、期間限定で温泉×遊園地のアトラクションが楽しめるというもの。「100万再生で本当にやります!」と題した動画は、今日時点で400万再生に届く勢いだ。動画を見るだけで「納得の楽しさ」が伝わってくる。

この企画に呼応し、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」上では、3000万円の「支援」を獲得。ひとり一口8000円の寄付に対する「リターン」が、来月7/29-31に開催されるイベントデーの入園券になるという形だ。「支援」と銘打った前売り券発売的なお金の集め方、実利的で面白い。CM単品ではなく、クラウドファンディングを通じた「参加」の体験提供が、マーケティングのユニークネスだと思える。

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別府の観光情報メディアは「温泉ハイスタンダード!極楽地獄別府」というサイトが中心。このサイトは現在完全に湯〜園地の件のプロモーションに特化していて(下の方にブログっぽいコンテンツもあるけど、画面いっぱい湯〜園地の導線になってて気がつかなかったぞ…)、別府地域全体がこの企画一本に集中して賭けているかのようだ。黄色背景に丸みの多い構成、テレビっぽいエンターテイメント感が強い。

Campfireのクローズ後も、このサイトで入園券の「販売」が続いている。平日月曜の31日は、まだ残席に余裕があるみたいだ。筆者の別府行きは7/13-15だから、関係者は仕込みにきっと大忙しだろう…

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舞台となるラクテンチは、1929年(昭和4年)に「別府遊園」としてオープンし、築88年(!)の歴史を持つ。2008年には一度経営不振から閉園したこともあるようだが、この企画は別府市に人を呼んでくるだけではなく、ラクテンチにとっても起死回生的な機会になるんだろうか?

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メインビジュアルがFlash

それにしても、たった2分半のメイン動画を撮影するために、少なくとも一度はラクテンチを「湯〜園地」状態にして、浴槽置いたりキャストをいっぱい配置したりして撮影に臨んだはず。設備の制約や「水」を扱う難しさもあって、オペレーションはけっこう大変なんじゃないだろうか。。3日間の「実現」を指揮する部分も含めて、大手広告代理店チームの「実行力」はさすがだと思う。「ゆ〜えんち」という発想まではある程度想像が付くにしても、この「容易に実行できない感(稀少性)」も、何千人もの人々に8000円(USJワンデーパスより高い!)という金額を払わせるだけの価値提示につながっている。

「湯〜園地」の全体プロデュースを担当するサウンドアーティスト清川進也さんは、2011年にドコモのCM「森の木琴」でカンヌ広告祭でいっぱい賞を獲った人。クリエイティブディレクターのドリル西田淳さん「森の木琴」のチームのようだ。プロダクションは福岡のCM制作会社T&E、映像のディレクターは、美麗映像でおなじみDRAWING&MANUAL小原譲さん

YouTubeが重要な顧客接点となる今、「音」と「映像」のクオリティにこだわるチームは欠かせない。webサイトで「Thank 湯~ Very Much!」とか言っているテイストに比べると、「湯〜園地」映像は単体でとても美しく、ネタのわりに意外と穏やかな空気にコントロールされている。

「湯〜園地」のスタッフリストはこちら

彼らクリエイターの力を結集して挑んだ課題は、温泉地=穏やかなイメージを持つ別府に、「愉しさ」の要素を持ち込むことだろうか。確かに、「朝晩は温泉に入るとして、昼間何しよっか?」という問いに対して、ぱっと答えは見つからない。温泉から連想される「癒やし」が刺さる層から、小さい子がいる家庭や若い層、海外の人にも射程を広げて、広く伝わっていきそうな価値提案だ。それを、言葉遊びやイメージだけでなく、実体験できる機会として用意していく部分に、力強さを感じた。今回は3日間の期間限定だけど、「お客さんの熱い要望に応えて再登場」することがこの先もあるのではないか。

別府温泉の男達(2016/電通九州)

電通仕事をもう一つ。2016年4月の熊本地震を受け、復興をテーマに作られたCMが「別府温泉の男達」シリーズ。シュールさがウケて6月ごろ話題になった作品だ。

「さまざまな別府市民が、あの手この手でPRする全14タイプ。」とあるように、別府市民の男達や、女将やおじいちゃんや子どもたちが出てくるCM。文字のあしらいからして、古き良き「テレビ的におもろいCM」っていう感じなんじゃないだろうか(最近テレビ見ないからわからんけど…w)。

この動画は、電通九州のプランナー左俊幸さんが手がける。「五ヶ瀬ハイランドスキー場」CMをはじめ、地域ブランディングの作品で知られる人のようだ。左さんのつくる別府CMは、この「男達」を受ける形で、「別府温泉の恩返し」というムービーにも発展している。「男達」に出演する「カラダを張る女将」が再登場したりして、パロディ色が強い印象。

hidari

左さん

「湯〜園地」もそうだけれど、電通仕事の印象的なところは、市長を引っ張ってきてメインキャラクター的に出演させているところだ(上記「地獄極楽別府」サイトでは梅干しみたいな表情してるし、「恩返し」には半裸で出演させてる)。2015年から第28代別府市長を務める長野恭紘さんは、政策秘書上がりで市長選に2回落選後、次世代の党と公明党推薦で3回目に当選…という経歴の方だが、カラダを張った42歳、こういうオモロ系広告とうまくマッチしているような気もする。

首長がメディアに露出している自治体は、地域ブランディングをがんばっている印象を与えやすいと思う。京都の門川大作市長や、丹後・与謝野の山添藤真町長、兵庫・豊岡の中貝宗治市長など、フットワーク軽く発信力のあるリーダーは、それだけでも魅力的に見えるし、PRがきっちり実行にリンクしていきそうな期待感がある。まだ1期目の長野市長はこのプロモーション企画にうまく乗っかって、地域での求心力を強めていくのではないだろうか。

シンフロ(2015/西広)

これは少し前、別府市ではなく大分県主体のプロモーションなのだが、「温泉×シンクロナイズドスイミング」でこれまた大いに話題になったのが「シンフロ」だ。メイン動画は150万再生。(これは出た頃に見た気がする…)

「別府温泉の男達」を観た後でシンフロを観ると、一見ウケ狙いっぽく聞こえるテーマでありながら、制作者の意図通り『ふざけている、だが美しい。』というコンセプトで一本筋が通った良い映像作品だと感じた。映像中には市内11の温泉が登場し、それぞれ景観も湯質も違って、どこも美しく、いろいろなところを巡ってみたいという気になる。「シンクロ」というプロのカラダを使った演技の美しさ、映像の美しさが、地域の風景の美しさを引き立てる。

ここでも映像はT&Eさん、音楽はinvisible design labs 清川進也さんが登場するんだけど(音楽は大分出身・滝廉太郎の「花」アレンジバージョンだそう)、シンフロの企画制作は電通ではなく、九州地場で西日本新聞・テレビ西日本系の広告会社、西広PRタイムスの事例インタビュー記事を読むと、制作陣のわりと真面目なスタンス、丁寧にメディア対応を積み重ねて成果を上げていった仕事の進め方がよく伝わってくる。文中にもあるように、『「インパクトのある動画だなぁ」で終わらない』ためには、「行ってみたい」という行動を喚起する要素が必要。「美しさ」と、地域で拾い集めた「音の面白さ」に着目したところがポイントだと思う。

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PRTimes

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西広

西広の事例記事には「大変だったのはプレゼン決定後からで」という記述があり、こちらもアイデアを現実化するために必要な手配、調整、撮影の試行錯誤での苦労は想像を絶する。メイキング映像も公開されていて、制作に関わった仕事人たちの姿を少しだけ垣間見ることができる。

※シンフロのブレーンスタッフリストはこちら(ブレーン)。

この「シンフロ」を手がけたCD緒方徹さんの西広チームが、熊本自身の直後に手がけたのが、Go! Beppu という新聞広告シリーズ。これも「新聞広告大賞」「突破クリエイティブアワード」はじめ多くの賞を獲得している。

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突破クリエイティブアワード2016の受賞作品紹介記事では、「単なる悲壮感では人は動かない。大変なときだからこそ笑わせよう!」というエピソードや、審査員であるコルク佐渡島さんの「これを震災後すぐ、3週間後にやるというのは、なかなかできることじゃない」というコメントが紹介されている。また、別の記事でも、シンフロの実績を踏まえて『クリエイターへの信頼があったこと、そして別府市は大分県の中でも面白い広告やCMを出すことに対して特に理解のある自治体だったこと』が、賛否両論の少しひねった広告を出す決断を促した、としている。

インパクトがあり、人を動かす(行動させる)クリエイティブには、ちょうどいい笑いと、質の高い仕事をするクリエイティブチームの存在が欠かせない。「笑い」の要素も、左さんの「不真面目なテイスト」に比べると、西広チームの「笑い」はわりと穏やかめ(真面目っぽい)な感じがする。同じクリエイターが入っても、トーンはさまざまに変わる。

温泉の源泉数・湧出量「日本一」の別府市は、産業構造的にも人口の8割以上が第3次産業従事者とあり、完全に観光業での勝負に振り切っているところがある。バランス的に危うい部分を感じつつも、ブランディング的には攻めやすいし、表現も考えやすいかもしれない。業界リーダーの戦略として振り切って攻めるから、大きい予算を投下して、高品質高価格のプロモーションを打って、がさっと集客する作戦が効くし、もとがとれるのだろう。

広告プロモーションを通じて、「美しさ」や「愉しさ」を訴求してきた大分別府温泉。街を歩く人たちの姿や、サービスを提供する人たちの姿がどんなものか、出会うのが楽しみになってきた。

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