山内麻美(下)文学として価値があるノンフィクションを

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堀本崇さんの伝記的ノンフィクション『バッタンバンのタッカシー』を著した山内麻美さんは、仕事で情報誌のテキストを書くだけではなく、児童文学やファンタジーも書くといいます。「ノンフィクションは圧倒的に沢木耕太郎さんが大好きで…」と語りつつも、今回初めてノンフィクションというジャンルに挑戦した山内さんが、どんな思いでこの作品を書いたのか、伺いました。(インタビュー:2011年4月)

「自分の生きる意味を考えろ」

――最初、堀本さんの生涯を「残したい」という思いで始められて、60人ものインタビューを重ねられた。でも、それを全部書き起こして残すわけではなくて、ある種そぎ落として、1冊の本にまとめられたわけですよね。どうして、このような形になったんですか。

山内 まさに、そこに「編集」という作業があったわけです。ある時、この本の主題のようなものを定めました。『自分の生きる意味を考えろ』という言葉――。これは堀本さんが中学校の講演で語りかけた言葉です。ボランティアに生きながらも、政治家になりたいという夢に何度も挫折し続けた堀本さん。彼をいつも支え続けた、「アジアの平和のために行きたい」という、夢の下にある原動力、生き方の指針みたいなところをテーマに設定しました。

ボランティアとは縁のない人が読んでくれたとしても、「自分の生きる意味を考える」という一点においては、みんなに普遍的なメッセージになる。ぜひ若い方とか、自分の人生をどうやって生きていこうか悩んでいらっしゃる方に、読んでいただいて、純粋な生き方をされた堀本さんの生き様が、救いとか、心の潤いになればと思っています。

叙情的な言葉選びをしたい

――『バッタンバンのタッカシー』はノンフィクションですが、小説のような書き方をされている印象を受けました。

山内 そうなんです。叙情的な言葉選びをしたいというか、空間ができるだけ想像できるような文章にしたいと思っていました。小説と現実の中間点で、「小説だったらどれほど楽だっただろう」と思いながら…(笑)。例えばあるシーンで、どんな鳥の声が聞こえていて、晴れだったのか雨だったのかが分かれば、どんな美しい描写になるだろう、と思いながらも、嘘は書けないじゃないですか。だから、カンボジアにも通って、空気感も含めて体に取り込んで、拾える情報を最大限拾っていきながら、なるべく読みやすい小説のような感じにしたい。そういうスタンスで書けたらなと。それが、私が書いた堀本さんだし。

優れたノンフィクション作品は、文学作品としての価値がある

――「ノンフィクション」というジャンルでは、どんなことが大事なんでしょう。

山内 私も初めて挑戦したので、あるとき「もっとノンフィクションを勉強しなさい」と人に言われて、大宅壮一賞の大賞を取ったような作品を10冊ばーっと読んだんです。集中して10冊、ノンフィクションとして何が大事か考えながら読んで、そのときに学んだのは、「ノンフィクションは事実に基づいて客観的に書くものだけれど、その先に書き手の思いや意見がしっかりしていないとダメなんだ」ということ。それは明確な答えとして一文に出てこなくても、優れたノンフィクション作品では、読み手に自然と伝わってくるものだし、そこに読んだ時の重みがある。それに気がついて、自分には「書き手の思い」や「意見」の部分がまだまだだと思って、ちょっと勇気を持って踏み込んだことを追加させていただいたりしたんです。そのころはものすごい挫折の時期で、もうだめかもしれん、みたいなことを思いながらも、もう一回やり直そうと思えて、その10冊には助けられましたね。

――単に記録として残すことと、ノンフィクションを書くのとは、大きな違いがありますか?

山内 優れたノンフィクションというのは、文学作品として価値があるんだと思います。だから、普遍的に読まれるし、人間の真理みたいなものを突いてくる。

――「文学」とは…

山内 「ちゃんと行間がある文章」。読み手に何か想像させたり、感情を動かしたりというものが、文字だけで起こさせる力があるものですかね。

いま世の中には、どんどん読み捨てられていく文章が溢れています。本でも、大切なところが太字になっていたり、間にマンガが挟まっていたり、いろいろありますよね。そういう工夫って楽しいし、私も好きです。でも、私は、文章だけで勝負したい。まだまだ未熟な書き手ですが、文章だけでも、読み手にちゃんと訴えかけられるものを、想像力の働く余地がある文章を、書けるようになりたいです。

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プロフィール

山内麻美(やまうち あさみ)。1979年東京都生まれ。シンガポールに拠点を置くフリーランスの編集ライター。2008年、児童文学作品『トコトワ』(未知谷)で作家デビューしたのち、2011年4月にノンフィクション作品『バッタンバンのタッカシー』を上梓。


About Satoshi Iritani

The Portrait of Hosting 主宰。2010年9月、西村佳哲氏がファシリテートする『インタビューのワークショップ』に参加したことを機に、インタビューの面白さに開眼。「入谷文耕堂」を屋号に掲げ、インタビューとウェブ制作のプロジェクトを手がける。 http://irritantis.info/author