鈴木美香子(上)「その人が『できること』に目を向けていきたい」

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縁あって、都内の特別養護老人ホームで、レクリエーションの時間を見学させていただく機会がありました。1時間弱の「セッション」と呼ばれる場の中で、80代前後と思われる施設利用者の方々が10人ほど集まり、皆で歌を歌ったり、一人ひとり太鼓を叩いたりして、楽しそうな時間を過ごしていました。この場をホストしていたのが、「音楽療法士」の鈴木美香子さんです。この日のセッションを終え、施設職員さんとの長い「ふりかえり」の時間を終えた鈴木さんに、お話を伺いました。(インタビュー:2011年6月)

始まる前の顔と、終わった後の顔の違いに感動する

――音楽療法の仕事をしていて、「嬉しい」と感じるのはどんなところですか?

鈴木 参加される施設利用者の方々の、セッションが始まる前の顔と、終わった後の顔が全く違うことに感動します。セッションを終えると、利用者さん同士で会話していたり、さっきまで歌っていた歌を一緒に歌い合ったり、「次は何を歌いたいね」と話していたり…。コミュニケーションがその場に生まれているのが、すごく嬉しいです。やっぱりこれは、自分が来て音楽を提供した結果だって思うから、自分のやっていることに少しでも意味がある、と、最近は感じられています。

――「喜んでもらえている」という感じでしょうか?

鈴木 喜ぶというよりも、一瞬でも「ぱっとする気持ち」が生まれているんだなって感じます。楽しいばかりではなくて、何か思い出して泣かれている方もいらっしゃった。介護施設で暮らしている高齢者の方々は外に出る機会が少ないので、ときどきああやって泣いたり、喜んだり、驚いたり、何か達成感を味わえるような、生活に刺激を添えることが大切だと思いますね。

――その手応えを「最近」感じられるようになったという、その理由は?

鈴木 少し前までは、参加される方全体に向けて一方的にやっていたのを、最近はひとりひとりにお声がけをするようにしたんです。体操をしながらとか、太鼓をたたきながら、お声がけをして、その人自身のやりたいことを引き出せるような質問をして、反応を見て…、「この人はこれが好きなんだ」ってというのが、わかるようになってきました。

その人が『できること』に目を向けていきたい

――介護という現場の中で、問題意識とか、気にしていることは何かありますか?

鈴木 お一人お一人の個性を重視した介護ができればいいなと。いろいろなことを外から取り込んで、その人がやりたいことを自由に選んで、個性をもっと伸ばせるような機会を持てたらいいと思いますね。たとえば将棋が好きな方だったら、その方を中心に将棋のサークルを作ったりとか…。そうすれば、コミュニティも生まれるし、その方の責任感も湧くし。せっかくできることがあるんだったら、それを伸ばせる場所を作ってあげたいです。

――「個性を伸ばす」、あるいは「得意なことを生かす」ための工夫を、音楽療法ではどのように取り入れているのでしょう?

鈴木 例えば、音楽が得意な方に太鼓を担当してもらったり、将棋が好きな方には将棋のことについて話してもらう機会をできるだけ持つように。立ち上がれる方には歌詞幕の張替えをお手伝いしてもらったり、太鼓が苦手な方は、太鼓の得意な隣の方と一緒に叩いてもらったり。そういった配慮は、できるだけしたいと思っています。

その方と職員さんとの関わりを見ている

――今日も、常連の方に加えて、新しい方もいらっしゃいましたよね。新しい方が入ってこられたとき、どういうところを見ているんですか?

鈴木 その方と(介護施設の)職員さんとの関わりを見ていますね。普段お世話しているのは職員さんだから、たぶん、職員さんに見せる顔がその人の一番自然な顔だと思います。だからそれを見て、私も職員さんと同じように接するようにしています。あとは、どういうことが好きか、得意か、を知るために、あらゆる角度から質問をしてみたり…。話してみないとわからないです。音楽療法は、時間が必要ですね。

――同じ施設での活動を半年続けてきた今、課題に感じていることは?

鈴木 職員さんとの関わりです。利用者さんと同じくらい、職員さんとの関わりが大事だと思いますね。それぞれの利用者さんが「こういう曲が好きなんだよ」とか「こっちが不自由だからこっちしか動かないよ」とか、職員さんだから知っていることがありますから。今はまだ、利用者さんのことで頭がいっぱいですけど、今後は職員さんの希望も取り入れて、利用者の方がもっと「自分を感じてもらえる」ような時間をつくっていきたいです。

プロフィール

鈴木美香子(すずき・みかこ)。音楽療法士。音大を卒業後、ピアノ教室の先生を経て、専門学校に再入学し、音楽療法を学ぶ。2010年より、株式会社リリムジカと出会い、主として高齢者向けの音楽療法プログラムの提供を続ける。


About Satoshi Iritani

The Portrait of Hosting 主宰。2010年9月、西村佳哲氏がファシリテートする『インタビューのワークショップ』に参加したことを機に、インタビューの面白さに開眼。「入谷文耕堂」を屋号に掲げ、インタビューとウェブ制作のプロジェクトを手がける。 http://irritantis.info/author