鈴木美香子(下)救い、或いは自己表現の手段としての音楽

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「音楽」を媒介として、介護の現場を舞台に”Hosting”を実践し続ける鈴木美香子さん。日本ではそれほど知名度が高いわけではない音楽療法という仕事にたどり着いた経緯と、これからの展望について伺いました。(インタビュー:2011年6月)

「ピアノ弾いてるときだけは、すごく楽しい」

――音楽療法は、いわゆる「弱者」、高齢者や障害者、子どもを対象としたものだと思うのですが、そういった人たちに対して何かしたいという問題意識の出発点は、どこにあるのでしょう?

鈴木 小さいころ、私けっこうおとなしくて、人とコミュニケーションをとるのが嫌いだったんですよ。それでいじめられたりもしたんです。でも、ピアノを弾いているときだけは、すごく楽しかった。忘れられるんですよね、嫌なことが。弾いている時間だけは、音楽の世界に入ってさえいればいいから、すごく楽だし、気持ちよくなるんです。その気持ちよさを、病気を持った人とか、なにか不安をもった人、同じように悩みを抱えている人に対して提供できないかなと思って。

私自身が音楽に救われた部分もあったから、音楽で人を癒したり、生きる希望を感じてもらえたら、すごく幸せな仕事だなと思っています。

コミュニケーションが苦手だから、一対一で話す

――コミュニケーションが苦手な子どもだったのに、いまはおじいちゃんおばあちゃんとすごくうまくコミュニケーションを取って仕事をしている…。

鈴木 今も人前で話すのってすごく苦手なんですよ!まさか自分がこんな人前で話す仕事をするとは思っていなくて(笑)。それで、ちょっと意識を変えて、全員に話すという意識ではなくて、一対一で話すという意識に変えれば楽だ、ということに最近気づいたんです。

――一対一ならそんなに大変ではないのですか?

鈴木 大変ではないです。ショーみたいに見せなきゃいけないと思うと、それはちょっと気が重い。でも、一対一で話したいと思うようになって、距離を縮めてみたら、(介護施設の)利用者さんもすごく親近感をもって私に接してくれるようになったんです。

いつも、2人だと話せるんですけど、3人になった途端「ぽつーん」という感じで聞く一方になっちゃう(笑)。自分が口を挟んじゃうと悪い、とか思っちゃうんですかね。でも、一対一なら、相手は自分のほうを見てくれるし、安心できる。じゃあ、私もその人だけを見て話せば安心してくれるじゃないかって気づきました。

――自分の場合、滑舌が悪くて聞き取られにくいとか、何回も聞き返されるのが嫌だとかで尻込みしがちなんですが、そういったことは苦になりませんか?

鈴木 実はそれがすごく大変で…、コミュニケーションがうまく取れないんです。でも、施設の職員さんから「伝わらないときはもっとゆっくりと低い声で」とか、「耳元で口は大きく開いて」とか、色々なコツを教えていただいて、なんとかコミュニケーションを取るようにしています。

――音楽という特徴的な媒介はあれど、やっていることは結局コミュニケーションなんですね。

鈴木 「音楽会」だったらどんなに楽かって思いますね。一人ひとりと話しながら、この人はどういうことを求めて、どういうことが必要なのかを考えながらプログラムを組み立てていきますから、それは音楽会と大きく違うところですね。

音楽を手段にすれば、けっこう近づける

――今後、とくにこういう人たちに向けた場を作りたい、という思いはありますか?

鈴木 いじめに遭ったりして引き篭っている子どもたちに、もっと音楽を楽しんで、自己表現できる場を与えられたらいいなと思います。やっぱり、つらいんですよね、自分の中に閉じこもっているのって。でも、それを表現できないでいる…。そういう子でも、音楽を手段とすれば、けっこう近づけたりします。自分の場合もそうで、大人が話しかけるより、音楽で接したほうが、ちょっと聞いてくれるんじゃないかと思います。その子のおうちに行って、「表現してもいい」場を作れればと思います。

――最後に。「音楽療法って何?」と聞かれたら、どう答えますか?

鈴木 「音楽を一緒に共有しに行く人」って説明します。その人と共有して、楽しい時間を持ってもらえることが、目的ですね。

プロフィール

鈴木美香子(すずき・みかこ)。音楽療法士。音大を卒業後、ピアノ教室の先生を経て、専門学校に再入学し、音楽療法を学ぶ。2010年より、株式会社リリムジカと出会い、主として高齢者向けの音楽療法プログラムの提供を続ける。


About Satoshi Iritani

The Portrait of Hosting 主宰。2010年9月、西村佳哲氏がファシリテートする『インタビューのワークショップ』に参加したことを機に、インタビューの面白さに開眼。「入谷文耕堂」を屋号に掲げ、インタビューとウェブ制作のプロジェクトを手がける。 http://irritantis.info/author